原発をトリウム方式に

こんなことできればイイな・・・・
■wired newsから記事を引用■
原子炉で使用する燃料をウランからトリウムに切り替えることができれば
発生する放射性廃棄物の量は約半分になり、兵器へ転用可能なプルトニウムを取り出せる量も80%ほど減る可能性がある。しかし、原子力業界がこの転換を実現するには、後押しする材料がもっと必要だと専門家らは語る。

 科学者たちは以前から、原子炉の燃料としてトリウムを利用することを考えていた。トリウムの使用には十分な理由がある――自然界に存在するトリウムは、ウランと比較して埋蔵量が豊富で、使用する際の効率や安全面でも優れている。それに加え、使用した燃料から核兵器の開発に利用可能な物質を取り出しにくいという利点もある。

 しかし、設計が難しいうえ、使用済み核燃料を原子爆弾へ転用したいという冷戦期の思惑も働き、原子力業界は主要燃料としてウランを採用した。

 各国政府が核兵器の拡散防止に目を向け、環境保護論者が世界中に存在する膨大な放射性廃棄物の削減を求めている現在、トリウムが再び注目を集めている。

 ここ数年の米国とロシアの研究によって、以前研究者を悩ませた問題のいくつかに解決策がもたらされた。そして、1月にはインド――トリウム埋蔵量はオーストラリアに次いで世界第2位――が、独自設計のトリウム原子炉の安全性テストを行なうと発表した。

 需要の増加を見込んで、未採掘の資源も含めてトリウムを可能な限り買い入れようと動き出した採掘会社もある。

 米ノバスター・リソーシズ社(本社ニューヨーク)で戦略企画室の主任を務めるセス・ショー氏は、「米国をはじめとする世界各国――もちろんインドも含む――が将来、トリウムだけを使用するようになるのは避けられないことだと、われわれは考えている」と語る。

 だが、1つ問題がある。マサチューセッツ工科大学(MIT)『先端核エネルギーシステムセンター』(CANES)のムジド・カジミ所長によれば、原子力発電業界はすでにインフラをウラン燃料用に作り上げていて、これを転換するために投資する理由がほとんどないという。

 「市場経済のなかでのことだ。トリウムへの移行が有利に働くような経済的条件が必要になる」と、カジミ所長は語る。「トリウムが魅力的に見えるほどウランの価格が高値に達するまでには、あと50年はかかるかもしれない」

 暫定的な解決策として、カジミ所長は、米政府が発電所に課している放射性廃棄物に対する負担金の算出方法を変更することを提案している。

 現在、廃棄物を出す場合に課される金額は、核燃料から生み出した電力の料金に応じて計算されている。カジミ所長の提案は、これをプルトニウムの量に応じたものに変更し、生成を抑制するというものだ。

 「現状では、燃料の廃棄物の量は問題とされていない。しかし、政府が動いて、使用済み核燃料に含まれるプルトニウムの量に応じて課金する方針を打ち出せば、トリウムを後押しすることになるだろう」とカジミ所長。

 核燃料開発を手がける米トリウム・パワー社(本社バージニア州)のセス・グレー社長は、原則的にはカジミ所長の考えを支持すると述べている。ただし、そうした変更によって課金が全体として増大するなら、それは公平ではないと釘を刺した。

 「発電所の経営者はコスト計算に基づいて原子炉を建設し、運営している。原子炉に関するルールをただ変更するというのは無理だ」と、グレー社長は語る。

 代わりにグレー社長は、官民が協力して新技術の開発に資金を投じ、トリウムの利点を具体的に示すことにより、よりよい代替手段を提供するという方法を提案する。

 たとえば、トリウム・パワー社はロシアの研究者と共同で、兵器に転用可能なプルトニウムをトリウム炉で燃焼させて処理する方法を探ってきた。米下院は3月、このプロジェクトに約500万ドルの資金を提供することを決めている。

 これだけではトリウムの採用を促進するのに十分でないとしても、電力を使う側の動向が変化を促すきっかけになり得ると、グレー社長は指摘する。規制緩和によって同じ地域で複数の電力会社が競争するようになり、利用者がどこから電力を買うかを選択できる状況が整いつつある。つまり、利用者は電気代をどこに払うかで、責任ある技術に投資した会社に投票できるというわけだ。

 この戦術には、効果をあげた前例がある。たとえば1980年代に、消費者が「イルカの安全に配慮しています」(dolphin safe)というラベルのないツナ缶の購入を拒否した結果、マグロ業界は、マグロ漁をイルカの犠牲が少なくてすむ方法に切り替えた。

 「利用者が電力供給者を選択するようになれば、非常に強大な力になる」と、グレー社長は語った。