東北の旅・その3

■5日目 6月12日(金)

朝3時40分、セットしていたアラームが鳴って起きてみると、外は無音だった。
天気予報では昼過ぎまで雨と言っていたが、猛烈に荒れてくれたお陰で、予想外に早く嵐が去ったようだ。
窓から外を覗くとガスに包まれた木々と笹原が静まり返っていた。
あの暴風を無事やり過ごした木々に感心した。
これは彼らの闘いの後の静寂なのかもしれない。
今日、白神岳を下りなければいけない。
ご来光を拝むラストチャンスだ。
4時、80mほど離れた山頂に立った。
日の出の時間なのだが、濃いガスに包まれて、太陽の兆しは見えない。
と、すると風が吹き始めた。
勢い良くガスが風に乗って流れ始め、上空が明るくなり、ややすると青空が顔を出した。
「コレはひょっとするとひょっとするぞ!」
見ている間に周囲が明るくなり、朝日の茜色が浮かび上がった。


ものの数分間の内に壮大なドラマが展開されて、感無量だった。

感謝感激雨アラレの白神岳にお礼を言って、下山を開始した。
大嵐後、葉っぱは清々しく緑色を輝かせ、澄み切った青空が広がる祝福の中、有り難い気持ちでいっぱいになって山を下りて行く。
「最後の水場」で中高年10人ほどのパーティーに会った。
白神岳登山ツアーの客らしく、昨日登山する予定だったのを1日ずらして「良かった良かった」と言っていた。
昨夜、僕が小屋に泊まっていたと知ると、皆んなで「くわばらくわばら」と言いながら登山道を登って行った。
白神岳の有り難い水をたっぷりと汲んで、無事登山口へ戻る。
国道101号線を南下し、秋田からは7号線に乗り、盛岡を目指す。
101+7=108
煩悩はお陰様で吹き飛ばされたか、洗い流されたようだ。
二ツ井から藤里の温泉へ行くつもりでいたのが、道路標示が分かりにくいせいで分岐を逃してしまった。
道の駅で、「イイ感じにひなびた温泉」を尋ねると、「長寿温泉」を案内してくれた。
北投石を使った温泉で、古くからある温泉が小奇麗になった感じがナイスだった。
旅先ではいろいろと聞いてみるものだ。
道の駅「ひない」で食事。
陽気が戻り、最高のドライブ日和の下、盛岡へ!とルンルン気分も束の間、そこは悲しい釧路人、暑さで弱ってきた。
ケチらずに高速道路に乗ればイイものを、国道を走ったのが大間違い。
視界を遮るトラックやらノロノロ運転車やらが眠気を誘う。
またこの道のダラダラと長い事・・・。
西根までたどり着いたところで、セルフ給油所を見つけて入り、さて盛岡までもう一息、と思ったところから思わぬ落とし穴に陥った。
道路案内標識にはサッパリ分からない地味な地名が次々と現われ、盛岡の文字が消えて、すっかり道に迷ってしまった。
カーナビ無しで困っている上に、手元にある地図は実にテキトーで、イライラパニック。
どうやらあのスタンドから南に進めば良かったようだ。
スタンドの「軽油価格」を真剣に見ながら進んでいる間に、「盛岡はこっちだ」の標識を見落としてしまったらしい。
何とか勘が働いて、盛岡方面へ進むことができたものの、いよいよ盛岡市内に入ったところで迷ってしまった。
これまた聞いた事もない地味な地名ばかり案内表示に現われて、盛岡駅は一体どこなのか分からないまま、渋滞路線でドボン。
盛岡人はよそ者に不親切だなぁ。
やっとの思いでコンビニに逃げ込んで「アリナミン」をレジに持って行くと、店員さんが「お疲れですか?」と声をかけてくれた。
よっぽど鬼のような形相をしていたんだろう。
駄々っ子のように「盛岡駅がどっちなのか全然分からない〜涙;」と言うと、今日泊まるホテルまで聞き出してくれて、丁寧に道案内してくれた。
盛岡人はよそ者に親切なんだなぁ。
そのコンビニから5分ほどで呆気なくホテルに着いてしまった。
ヤレヤレ。
部屋に入るとすぐに洗濯に大忙し。
一息ついたところで、夕食に出掛けた。
盛岡駅前に「あべじゃ」というイイ感じの居酒屋を見つけて入ると、笑顔がたまらない女性店員に優しく迎えられた。
ニイナちゃんというそのお嬢は、なんと札幌に5年住んでいたそうで、楽しい会話ができた。
七福神という美味しいお酒をいただき、ハッピーな盛岡の夜に酔いしれた。
盛岡もまた酒処なのであった。